2024年2月28日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国⑨
就航船は寄港と修繕で依存度高く

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn
 船が就航した後に必要になる船舶管理の分野で日本と中国の関係を見ると、船舶の寄港地、船員供給源、修繕地の主に3点が浮かび上がる。特に中国との関係が深いのが、大荷主国ゆえの寄港と修繕だ。
 まず船員供給源としての中国を見ると、日本の海運業界にとって中国人船員への依存度は決して高くない。日本の海運会社は中国の船員教育機関に対して奨学金制度を導入するなど、同国での船員養成と配乗を続けているが、それでも配乗人数の点でマイナーな存在だ。日本商船隊の船員ソースは、海運会社や船舶管理会社が船員研修施設や商船大学を設置して養成確保に力を注ぐフィリピンが7割と多くを占める状況に変わりはなく、フィリピン人はより高い職位の役割を担うなど、日本はますます依存度を高めている状況だ。
 それでもかつて、中国人船員に注目が集まったことがあった。2000年代に入ってからだ。船隊の増加で船員需給がひっ迫する中、船舶管理会社などは中国人船員の手配を始め、日本商船隊への配乗が進められた。その魅力は潜在的な人数規模とコスト安だった。
 しかし期待通りにいかなかった。人数については、中国の海運会社が船隊規模を拡大するとともに、中国人船員は国内企業へその活躍の場を求める傾向が強くなった。経済成長により、海の仕事から陸上の仕事へと向かう人も増えた。また、コストについても、当時は「中国人の船員費はフィリピン人よりも、1隻当たり年間で1000万円も低かった」(船舶管理関係者)といわれるが、世界一律の給与水準が当てはめられる中で船員費の面での競争力は失われ、他国船員と同等ないし、場合によっては高くもなった。
 一方で、日本海運の中国への依存度が高いのは船舶の修繕になる。コロナ禍ではその依存度の高さを背景に日本の船主や船舶管理会社は対応に追われた。
 コロナ禍のピーク期は、中国ドックへの入渠問題は深刻だった。同国で厳しい感染防止策が取られたことに加え、都市封鎖(ロックダウン)による物流停滞で修繕に用いる資材の輸送も滞った。さらに入港規制について省ごとに規制が異なることも混乱を招いた。
 修繕ではないが、中国造船所で建造される船の引き取りも通常とは異なる対応を迫られた。感染対策で通常配乗される外国人船員が引き取りに来るハードルが上がったことで、造船所から出帆する際は中国人船員を起用し、その後運航を担う通常の船員に乗せ換えるという対応が取られた。これによる煩雑さやコスト増は大きなものだった。
 厳格な感染対策を背景に、コロナ禍が最も厳しかった時期は日本の海運会社もシンガポールなど他の修繕ヤードに切り替えて対応することになったが、コロナ収束後は中国に回帰した。コスト安や豊富なマンパワー、さらには寄港地や航路周辺にある地理的な優位性によるものだ。この結果、日本の修繕の中国集中は続いている状況だ。
 コロナ後も、急な対応を迫られることは時々ある。ある船主は、普段から利用している修繕ヤードが政府の指導でドックを一時停止させたことで、予定していた入渠ができずに、急遽他の修繕ヤードに依頼してしのいだという。
 コロナ禍などに対する同国の対応などを鑑みると、同国の修繕ドックが低稼働になったり、万が一、一時的に入渠が難しくなった場合、日本のみならず世界の海運にとって死活問題になる。修繕地としての同国の魅力から他国への切り替えなどの抜本的な対応策はなかなか存在しないが、急な対応が必要になることも視野に、同国や他国の複数の修繕ヤードとの関係作りなどの準備が必要になりそうだ。
(この連載は、これで終了します)

関連記事

  • 増刊号今治
  • 増刊号日本郵船