2024年2月2日無料公開記事海事産業と中国
《連載》海事産業と中国⑤
成長3事業をバランス良く強化
川崎汽船・明珍幸一社長
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中国事業の展開方針について川崎汽船の明珍幸一社長は、ボーキサイトやLNG、電気自動車(EV)の輸送需要の高まりを踏まえ、「川崎汽船の成長を牽引する3事業(鉄鋼原料、自動車船、LNG輸送船)を中国でもバランスを取りながら伸ばしていく」と話す。中国造船については、「中国単体ではなく、アジアで造船の中心である日本、韓国、中国の1つとして見るべきだ」と指摘。各国の建造能力と技術力、環境対応の動向に注目していく方針だ。
— 海運にとっての中国市場をどのように評価するか。
「中国は一人っ子政策を続けてきたことに加え、足元では賃金が上昇しつつあり、今後は高齢化も進むという問題を抱えている。しかし、巨大な人口や産業を抱えていることは間違いなく、最大の輸出国という地位は簡単には変わらないだろう。加えて、一大消費国としての役割も果たしていく」
「確かに中国の製造コストは上昇し、デリスキングの観点なども踏まえ、付加価値の低い消費財の生産拠点が東南アジアなどに一部シフトすることは考えられる。しかし、付加価値の高い品目は引き続き中国に残ると考えている。製造の自動化も進んでくるだろう。WTO(世界貿易機関)加盟以降となる2000年代前半の中国は、安い賃金を生かして欧米などの先進国から製造業を誘致し、大量生産して輸出で稼いできた。20年後の今、何が起きているかというと、EVなど付加価値の高い輸出品が増加している。中国は今後も巨大な人口を支えていくための産業を作っていく必要がある。政府が半導体やEVなど先端分野への補助を積極的に打ち出していることは、付加価値の高い産業に注力していくという意思を表していると考えている」
「資源・原材料の輸入については、鉄鉱石が頭打ちになっているものの、EVの需要拡大に伴いアルミニウムは増えていく。ボーキサイトも伸びている状況だ。穀物については国内での自給率を高めていくと見られるものの、巨大な人口を抱えていることもあり、飼料を含めて海外からの輸入需要もあるだろう。エネルギーに関しては、環境負荷の低いLNGの輸送需要が伸びると見ている」
— 川崎汽船として中国関連で注力していく分野は。
「成長を牽引する3事業を中国でも強化していく。鉄鋼原料船によるボーキサイトの輸送に加え、環境負荷の低いLNGの輸送や、EVをはじめとする自動車の輸出は今後も増えてくると見ている。こうした需要の成長に対応していきたい」
「特定の事業に偏重しすぎると、反動のリスクもある。また、国営船社の存在もある。経済安全保障の観点から、一定程度の中国発着貨物は国営船社を起用することになるだろう。一方、中国は一大マーケットとして関与しないことは考えられないし、中国でのサービスの提供が他の地域でビジネスにつながるケースもある。事業展開に当たってはバランスのとれた対応が必要だ」
— 造船大国としての中国をどう見ているか。
「建造能力とキャパシティ、技術力という観点で見ると、アジアでは日本と韓国、中国が中心となる。中国単体ではなく、日中韓の1つとして中国を見るべきだ。環境技術への対応では、日本の造船所が一歩先を走っており、これからもオールジャパンで取り組んでいきたい。一方で、中国の造船所を見ると、設計機能を国営の上海船舶設計研究院(SDARI)に集約しており、環境対応をどう進めていくか検討している。また、大型ドックの新造も積極的に進めており、建造能力を高めている。大型ドックの整備効果は、大型船が建造できるようになることだけではなく、連続建造という観点でも利便性が高まる。日本対中国ではなく、韓国対中国という図式ができてくると考えている。日本は高付加価値船の建造で優れている一方で、韓国や中国は大量建造に優位性を発揮していくのではないか。日本と韓国、中国の造船所を建造能力、技術、環境対応、燃費など運航性能という観点で見ていくことになる」
(聞き手:中村直樹、日下部佳子、中村晃輔)