2024年1月31日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国④
LNG強化、自動車・ドライなど安定
日本郵船・曽我貴也社長

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 日本郵船の曽我貴也社長は中国の海運業への影響力について「今後もあらゆる船種で注目すべき国になる」との見方を示した。同社グループの中国での事業展開では、「これまで積極的に展開してきた自動車物流、ドライバルク、郵船ロジスティクスは今後は安定拡大路線でいく一方、需要の伸びが見込まれるLNGを特に強化していく」考えだ。中国造船所の技術力は着実に高まっているとの認識を示しつつ、「中国造船所の現在の実力を正確に把握しながら切磋琢磨し、あるいは協力できるところは協力していけば、日本の海事産業全体の力も高まるのではないか」と述べた。

 — 中国の海運マーケットへの影響力をどうみるか。
 「中国の資源爆食が2000年代に始まって以降、海運マーケットに対する中国の影響力はとてつもなく大きくなった。今後はこれまでのような高い経済成長率を維持するのは不可能と認識しているが、計画経済の中国では政府が年4〜5%程度の成長を維持する努力を続けるだろう。中国の自動車を含む一般消費財の輸出量と原料、穀物、エネルギーの輸入量は膨大なので、今後もあらゆる船種で注目すべき国になる。一般消費財の生産を中国から東南アジアなどに移転する動きがあったが、その量は中国全体の中のごく一部。例えば、自動車の年間生産台数はタイの約190万台に対して中国は約2700万台と、桁違いに大きい。中国はそれぞれの商品市場と海運会社にとって非常に大きな存在であり、成長率が4〜5%に落ちたとしても絶対量としては非常に大きい。むしろ海運にとっては中国が緩やかな成長に落ち着いた方が需要を読みやすくなっていいと思う」
 「中国が2023年10月に1兆元の国債追加発行を発表し、用途の詳細は不明だが、豪雨災害を受けた地域の経済復興に充てると言われている。地方政府がどのような見識と知恵をもって公共事業などに予算を使っていくかが当面の注目点だ」
 — 日本郵船グループが中国で特に力を入れる分野は。
 「当社はこれまで中国の自動車物流に積極的に投資してきた。現在自動車ターミナルを4カ所運営し、同国の自動車輸出急増によって大きな収益を上げている。ただ、中国の自動車輸出の伸びは今後緩やかになると見られるので、この事業でのこれ以上の投資は難しい。中国の完成車陸上輸送も競争が激しくなっており、同国での自動車物流事業のわれわれの伸びしろは小さいと考えている」
 「ドライバルクは中国の鉄鋼原料の輸入量が頭打ちのためわれわれが今後輸送量を大きく伸ばすのは難しいが、ボリュームは圧倒的に大きいため、荷動きが今後安定的に推移してその中で事業を行えるのを期待している」
 「中国のエネルギーの輸入については、中長期的に石炭が減ってLNGが増えると言われおり、実際に中国のエネルギー会社のLNG船の発注が増えている。当社はこれまでどちらかというと中国向けのLNG船に強くなかったが、現在は相当力を入れて取り組んでいる」
 — 郵船ロジスティクスの中国展開は。
 「中国国内に多くの拠点を置いて事業を展開している。今後はこれを劇的に増やすのではなく、安定成長路線で進めていくことになると思う」
 — 中国造船所に対する評価は。
 「2023年9月末に中国に出張し、その中で造船所もいくつか訪問して見学と意見交換を行ったが、技術力がかつてと比べて非常にアップしている印象を受けた。中国の各造船所が優秀なエンジニアを大勢抱えているのがその背景だが、一方で就職できない優秀な人材がたくさんいるそうだ。日本の造船所が人材不足で悩む一方で、中国の造船所で優秀な人材が余っているというミスマッチを何とかできないのかという疑問を持ちながら帰国した」
 「今回訪問した中国の造船所は非常にやる気にあふれ、モチベーションから来る良いスパイラルの中で技術力が徐々に上がっているという印象を受けた。日本の海事クラスターはけっして中国造船所の技術力を侮ってはいけないと思う。当社は昨年中国造船所でLNG燃料自動車船を4隻建造したが、今後も同国の造船所を一定程度活用していくことになるだろう。ただ、われわれには脱炭素をてこにして日本の海事クラスターをもっと活性化したいという強い思いがある。その要素の1つとして、中国造船所の現在の実力を正確に把握しながら切磋琢磨し、あるいは協力できるところは協力していけば、日本の海事産業全体の力も高まるのではないか」
(聞き手:中村直樹、深澤義仁、日下部佳子、中村晃輔)

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