2024年1月29日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国③
輸出国化で海運の協業機会が増加
飯野海運・大谷祐介社長

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 飯野海運の大谷祐介社長は、中国で環境問題への取り組みが加速するにつれてクリーンエネルギーの需要が増すとして、「(中国の国土や人口を踏まえた)必要規模を考えると、世界においてキーポイントな国になるのは間違いない」と話す。また、同社が中国とのビジネスの拡大を目指す分野としてガス船分野を挙げ、「今後、中国の輸出国としての側面が強くなれば、自ら船の調達を進める機会が増え、当社としても協業できる商売が出てくるかもしれない」との見方を示した。

 — 今後の中国市場の成長性をどう見ているか。
 「中国は自国で資材の生産が可能で、不足した分を輸入している。このため、景気が悪化し資材の需要が減った際には、まず輸入分が減らされて内製化がますます進む可能性がある。中国はあれだけの広い国土を持ち人口も多いので、景気が悪化してもなお、需要が確実にある。その需要を自国でまかなえるようになってしまえば、船会社としては生活資材など一部を除いては輸送するものが減少することが考えられる。ケミカル船市場ではすでにそういった傾向が見られているようだ」
 「ただ、中国も最近では多方面で環境問題に力を入れ始めており、石油や石炭から脱却するならば、その代替としてよりクリーンなエネルギーなどの必要性が増してくる。その必要規模を考えると、輸入・輸出のどちらの側面が強くなるにせよ、世界においてキーポイントになる国なのは間違いないと思っている」
 「一方で、台湾との緊張関係など、地政学的リスクの懸念は増している。当社はケミカル船やガス船で中国の港湾に寄港しており、顧客との関係上、コントロールが難しい部分ではあるが、リスクとして捉えておく必要がある」
 — 中国とのビジネスで拡大を目指す分野は。
 「中国と直接ビジネスができそうな分野として、ガス船分野に注目している。中国のガスの輸送需要はLNG、LPG、エタンなどがあり、大型船だけでなく小型船も必要になるだろう。中国企業が自ら船を保有・運航するビジネスも出てくるだろうから、それに対して当社として何らかの取り組みができないか考えている。今後、輸入ガスを活用した化学製品の内製化によるケミカル製品の輸出など、貨物を問わず中国が輸出国としての側面が強くなれば、海運業において同国と連携して取り組める商売が出てくるかもしれない」
 — 造船大国としての中国をどう評価するか。
 「当社は日本の造船所が出資する中国造船所で2隻建造したことがある。竣工後の入渠はまだ1回程度なので、評価するにはまだ早いと思っている」
 「中国建造船は、イニシャルコストは比較的安価である一方、ランニングコストがかさむ側面があると聞く。また、中国で建造する時に多数の建造監督が必要となれば、その分コストは増える。評価は長い目で見てからでないと難しい。当社はケミカル船についても、中国造船所での建造を具体的に検討しているが、トータルコストの比較など、もう少し時間が必要だ。既に当社が保有している中国建造の2隻が1つのバロメーターになるだろう」
 「貨物船やガス船は中国建造船が増えており、当社も貨物船をスポット用船するなどして全体のパフォーマンスは把握しているが、建造に踏み切れていない。現在は韓国や日本の造船所で建造する分で間に合っていることもある。ただ、今後船価がさらに高騰するならば、中国建造は避けて通れないと思っており、研究は継続しているし、竣工済みの中国建造船のパフォーマンスを注視している。中国建造船を持つ船社との協業も検討を進めたい」
(聞き手:中村直樹、日下部佳子、横川ちひろ)

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