2024年1月18日無料公開記事海事産業と中国
《連載》海事産業と中国①
中国造船、環境対応船への積極姿勢に注目
商船三井・橋本剛社長
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橋本氏
中国市場は2000年代初頭の「資源爆食」から大きく拡大し、海運マーケットにも多大な影響を与えてきた。商船三井の橋本剛社長は「爆発的な成長はほぼ終わった」とみるが、一方で、「絶対規模として巨大なマーケットが出来上がったわけで、その経済成長が3~4%であっても分母が大きい分、市場の拡大余地も大きい」とみる。中国造船については、「急速に水準が上がってきており、価格競争力もある」として、環境対応船への積極姿勢に注目する。
— 海運にとって中国市場をどのように評価するか。
「中国の爆発的な成長はほぼ終わり、安定的で先進国に近い成長モードに入ってきた。経済成長率は2023年に5%、24年は4%台になると予測されており、成長の鈍化はある程度仕方のないことでもある。ただ絶対規模として巨大なマーケットができあがったわけで、それが4%しか伸びなくても分母が大きい分、市場の拡大は大きい。分母が小さかった頃に10%以上の高い成長率を示していたのと比べてどうなのかを冷静に考える必要がある。中国の経済規模は日本の約3倍。そのマーケットが4%増えるだけでも大きい」
「経済のメインストリームが、欧米はモノから情報やコトにシフトしている一方、中国や他のアジア諸国はモノづくりを中心に経済を回していく構造がしばらく続くだろう。自動車、住宅資材、機械類、鉄鋼など産業のベースになる部分は中国や東南アジア、いずれはインドも含め、アジアの圧倒的な生産規模が世界経済の中心軸となる構図はあまり変わらない。われわれにとって、中国の原料や燃料の輸入、製品の輸出は非常に大事な物流なので、きちんとカバーしていかなければいけない」
「地理的に見て、われわれは優位なポジションにある。中国一極集中で依存すると、コロナ下のロックダウンのような事態になったときに物流が止まってしまうので、サプライチェーンのレジリエンスを高めるためにインドや東南アジアへの分散も重要となっている。これにより、インドや東南アジアからの物流は中国からの物流以上のスピードで伸びていくだろう。それらの地域にも張っていくのはもちろんだが、だからといって、中国から撤退することはあり得ない」
— 商船三井が中国関連で注力していきたい分野は。
「これまではどちらかというと、中国の原材料や燃料の輸入の動きを重要視し、鉄鉱石、LNG、原油など資源関連の荷動きを追ってきた。また、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)のコンテナ船事業にとって中国市場は非常に重要だ。今後は、例えば自動車船や、ケミカルタンカー、中小型バルカーによるセミライナー的なサービスについても、アジア域内物流とアジアから世界への物流の両方とも伸びていくと思う」
— 商船三井はLNGの中国ビジネスに強いが、中国向けはまだ伸ばせるか。
「中国向けのLNGの荷動き量が伸びることは間違いない。ただ、中国の国策で、コスコなど中国船社の支配力が強まっていくと思う。また、以前とは異なり、コスコを中心としつつチャイナマーチャントなどいくつかの船会社を競わせる国策をとっているようだ。造船所についても同様。われわれとしては状況を見極めながら、存在感をどこまで出していけるかを考えていきたい」
— 造船大国としての中国との向き合い方についてはどうか。
「中国は設備投資を躊躇しないし、技術者の数が多い。急速に水準が上がってきており、価格競争力もある。中国政府は脱炭素の方向へ進んでいくことを明確化しているので、今後われわれが造っていかなければならない環境対応船についても、メタノール、アンモニア、LNG、将来的には水素を燃料にするような船への取り組みに対して最も積極的な姿勢を感じる。環境対応船の存在が増加することによって21世紀の海運業の地図が変わってくると思う。日本の造船所が国のサポートや税制の仕組みを活用してもう一度頑張ってもらうことが、われわれが国際競争の中で勝ち抜いていくために最も望ましいシナリオだが、日本の国策の中で日本造船業がどうなっていくか。われわれとしてはその動向を睨んでいかざるを得ない」
(聞き手:中村直樹、深澤義仁、日下部佳子、中村晃輔)
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この連載では、海運にとって大きな市場であり、造船国としても注目される中国と海事産業の関わりを追う。随時連載。