2023年5月11日無料公開記事
グループ会社の再編、相次ぎ実施
邦船大手、重点分野強化・課題対応などで
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強固な財務基盤を活用しグループ経営強化
邦船大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)によるグループ会社の完全子会社化や企業統合などの再編が、2022年以降相次いでいる。子会社の株式取得費用などの原資として、過去2年の記録的な好業績で強化された財務基盤を活用。経営の効率化だけでなく、ポートフォリオ戦略の中で重点分野に位置づける事業の強化や、脱炭素・DX(デジタルトランスフォーメーション)などの課題への対応でグループの力を結集するねらいがある。
グループ会社の再編の動きが過去2年間で最も活発だったのが商船三井。同社は今年度からの新たな経営計画の中で海洋、物流、不動産、フェリー、クルーズなどの非海運事業を強化する方針を示し、同社の利益に占める非海運事業の比率を25年度に22%、35年度に30%へ高める目標を掲げた。商船三井が22年以降実施したグループ会社の再編はこの非海運事業に集中しており、体制を整えて同事業の強化に本格的に乗り出した。
商船三井は21年11月に当時東証1部上場の宇徳とダイビルを株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化すると発表。TOBが成立し、22年3月に宇徳、同年4月にダイビルを完全子会社化した。商船三井は両社のTOBに計約1300億円を投じるとしていた。商船三井の橋本剛社長は両社の完全子会社化の目的について「商船三井グループ全体の地域戦略・環境戦略の中にダイビルと宇徳の成長戦略をきちんと組み込み、商船三井と手を携えて事業を伸ばしていくことを志向した」と語った。
続いて商船三井は商船三井ロジスティクス(MLG)を22年11月に完全子会社化した。商船三井と近鉄エクスプレス(KWE)は05年に業務・資本提携契約を締結し、商船三井がKWEの株式5.0%を保有する一方、KWEがMLGの株式24.9%を保有。商船三井は近鉄グループホールディングスが実施したTOBに応じて保有していたKWEの株式を売却し、株式の持ち合いが解消されていた。商船三井はMLGの完全子会社化の理由を「MLGの事業の強化はもとより、シナジー効果を発揮することで持続的な企業価値向上に努めていく」と説明した。
商船三井は今年2月、100%子会社の商船三井フェリーとフェリーさんふらわあの事業統合を決定したと発表。今年10月1日に商船三井フェリーを存続会社とする合併を行い、新会社として営業を開始する。新会社の船隊はフェリー10隻・RORO船5隻で、国内最大規模のフェリー・内航RORO船事業会社が誕生。脱炭素、DXへの対応や国内物流・旅客需要の変化などを見据えて統合によって経営基盤を強化する。商船三井は「ウェルビーイングライフ」を新たな事業の柱とする方針を打ち出し、その中核の1つにフェリー事業を位置付けている。
日本郵船は、不定期船部門の関連会社で海事関連企業・荷主などとの共同出資で長年運営してきた三菱鉱石輸送と太平洋汽船をこのほど完全子会社化した。郵船は内航分野を強化する方針を掲げており、太平洋汽船は内航不定期船社として新規プロジェクトへの船舶管理・船員配乗業務の提供や自律運航船・環境対応船などの技術開発のためのデータ提供とトライアルの場の提供などで貢献する。
三菱鉱石輸送は現在20隻弱を保有し、郵船向けの自動車船・チップ船の船主業のほか、ケープサイズ・バルカー2隻を運航して国内製鉄会社と資源メジャー向けの鉄鋼原料輸送に投入。主力事業はパナマックスの船主業で、海外用船者向けの短期契約に投入している。同社は郵船の完全子会社化後、郵船向けの専用船の船主・舶舶管理業を新燃料への転換に対応しながら継続・強化するとともに、ケープサイズ/パナマックスのオペレーター・船主業でも郵船と協力していく方針。
郵船はこれらに先立ち、2018年に当時東証1部に上場していた連結子会社の郵船ロジスティクス(YLK)をTOBで完全子会社化した。郵船は物流事業を成長分野かつ安定収益型事業の1つとして強化する方針を打ち出している。物流事業強化の体制づくりと、コンテナ船事業の分社・統合後の郵船グループのネットワークの核としてのYLKの機能強化が目的だった。郵船の22年度の連結売上高のうち、YLKを中心とする物流事業が33%を占め、同部門の経常利益は2期連続で500億円を超えた。郵船は今年度からスタートした新たな中期経営計画の中でも物流事業を重点部門に位置づけている。郵船は今年3月、100%子会社の日本貨物航空(NCA)をANAホールディングスに譲渡することで基本合意したと発表。これによってライナー&ロジスティクス事業の主要企業はYLKとオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の2社になる。
川崎汽船は22年3月に東証二部に上場していた川崎近海汽船を完全子会社化すると発表し、同年6月に実施した。川崎近海汽船は1966年に川崎汽船の内航営業権の承継で発足して以来、近海船・内航船・フェリーの3事業を柱とし、近年はオフショア支援船部門にも進出して業容を拡大。内航部門を中心に安定的な経営を続けてきた。
川崎汽船は2020年2月に川崎近海汽船に対して完全子会社化に向けた協議の開始を申し入れ、2年に渡る協議を経て合意に至った。川崎汽船は同社を完全子会社化するメリットとして、ドライバルク・近海・内航不定期船部門の営業力強化や、洋上風力発電支援船事業での協働強化、環境・安全・デジタル技術に関する協力などを挙げた。