2025年4月2日無料公開記事データ活用のトレンド
《連載》データ活用のトレンド
環境規制でデータ利活用は加速へ
データの信頼性や共通評価基準の確立がカギ、ShipDCに聞く
-
池田社長(左)と森谷氏
船舶IoTデータ共有基盤「IoSオープンプラットフォーム(IoS-OP)」を運営するシップデータセンター(ShipDC)の池田靖弘社長は、「これまでデータ活用に向けた基盤を整備してきたが、現在はデータもそろい、活用事例も増えてきた。いよいよデータを使い、各社が果実を模索する局面にきた」と語る。環境規制の強化に伴い、「既存船を中心に、詳細なデータで本船の実力を測り、性能改善の手を打つ取り組みが進むだろう」との見解を示し、データの信頼性や共通の評価基準の確立が今後のカギになると指摘する。
池田社長と森谷明事業推進部長に聞いた。
― IoS-OPの現況は。
「会員数は現在68社、データ登録船舶数は邦船大手3社や美須賀海運の船舶など計511隻、プラットフォームプロバイダーは9社、アプリケーションの登録が23社、データバイヤーが13社。特にアプリケーションの登録が増えた。背景にはShipDCへのデータ登録が進み、実データが流通するようになったこと、IoS-OPの認知度向上、マーケティング目的での参加者増加などがある。主に海外をターゲットに今後も拡大したいと考えており、3年後に会員数80社、登録船舶650隻、アプリ登録30社、データバイヤー30社を目指す」
― IoS-OPコンソーシアムの活動で、最近のトピックスは。
「4つのワーキンググループ(WG)で活動しており、このうちルール策定・データガバナンスWGでは邦船大手3社の運航データを、IoS-OPを通じ一元的に海上保安庁に提供している。またソリューションWG内には、海事クラスターがIoS-OPにおいて協調領域の創出を議論できる『協調領域検討会』を立ち上げた。データ利用目的に応じてどんなデータが必要かを整理する『データカタログ』の整理にも取り組んでいる。現在ダイハツディーゼルと協力し、発電機の異常検知に必要なデータや桁数などを整理している」
― IoS-OPにおけるデータ活用の現状は。
「2018年の発足当初は手探り状態だったが、データが整備され、実際のデータ活用事例も増えてきた。例えば、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の事例が挙げられる。もともと邦船3社がそれぞれ異なるモニタリングシステムをコンテナ船に搭載していたが、IoS-OPを通じてデータを統一フォーマットに変換し、ONE独自のアプリにデータを取り込んでいる。IoS-OPが、船上サーバーの種類を問わず、柔軟なデータ活用を可能にするハブ的な役割を果たしている」
「次に、美須賀海運の船舶と、日立造船マリンエンジン製の船舶データを解析するウェブアプリケーションサービス『HiZAS VDA(Vessel Data Analysis)』との接続事例だ。通常、船舶のデータとアプリをつなげる場合、データロガーメーカーごとに異なる仕様調整が必要だが、IoS-OPを介することでデータ形式が統一され、スムーズな接続が可能となった。これにより、異なる船上サーバーや複数のアプリを柔軟に連携する環境が整った」
「中国塗料の事例もある。同社は船底防汚塗料販売時に船体データ解析サービス『CMP-MAP』を用いて、就航後の汚損や経年劣化を評価するデータを提供しているが、顧客からのデータ提供や、解析結果の信頼性に課題があった。そこで、IoS-OPを活用することでデータ共有の自動化と解析レポートのクラウド共有が実現。さらに、解析結果に対して日本海事協会(NK)が鑑定書を発行したことで、信頼性と透明性が向上した。この取り組みは、環境規制の強化に伴い、省エネ技術や風力推進装置の効果測定などにおいて今後需要が高まると考えられる」
― データ活用のトレンドをどう見るか。
「1つの事例として、軸馬力計の導入が、従来の造船所主体から船主によるレトロフィットへと広がっている。これは、船舶の運航性能を正確に測定・解析しようとする動きの高まりを示している。例えば船主は用船社に対し自社船舶の性能を示す必要があるが、そのためにはデータの信頼性や共通の評価基準の確立が不可欠となる。こうしたニーズの高まりを受け、NKや当社も対応を進めており、その環境が整えば、性能改善につながる製品・サービスの需要拡大や市場発展にも結び付くだろう」
― データ活用への課題は。
「データ品質の確保だ。センサーの不具合や測定値の異常、瞬時値と平均値の扱いなど、信頼性が低く一貫性のないデータでは正確な解析が難しい。このため、ShipDCでは『協調領域検討会』を通じてデータ名称の標準化やデータカタログの整備を進め、業界全体でのデータ品質向上を図っている。特に対水船速計の精度やキャリブレーションに関する課題は、エンジン性能評価に直結する重要な問題だ。こうした課題解決に向けて、業界全体で合意形成を進めながら、データの標準化や品質管理の枠組みを構築していくことが求められる」
(聞き手:岡部ソフィ満有子)