1. ニュース

2023年12月20日無料公開記事

「造船は転換期」、生産量拡大へ
名村造船所、修繕業も想定上回る進捗

  • X
  • facebook
  • LINE

人材確保とスマートファクトリー化で建造量拡大する考え示す

名村造船所の名村建介社長は18日、造船記者会との会見を開催し、この中で、「新造船事業は大きな転換点を迎え、新たな成長局面。将来的な建造需要拡大をにらみ、今後は生産量拡大を図る」との考えを示した。労働力不足がネックとなる中、人材確保とともに工場のスマートファクトリー化による効率化も通じて、伊万里事業所と函館どつくで建造量拡大を進める。スマートファクトリー化に向けて設備投資も増額する方針だ。グループのもう1つの事業の柱としている船舶修繕事業も拡大を図っており、修繕業主体に転換した佐世保重工業では「当初計画以上で進捗している」とした。

会見には名村社長と間渕重文専務、向周常務、坂田貴史常務が出席した。概要は次の通り。


  23年度業績


▽2023年4〜9月期連結業績は、資機材価格等のインフレ傾向はあったがグループ一丸でのコストダウンと円安の影響により、純利益76億円だった。新造船事業は、資機材価格高騰が続いているが、海外を含むサプライチェーン見直しを図るとともに、設計・製造が協力して省資材設計を進めたことや、ケープサイズの連続建造で資材価格高騰前にロット発注できていたことなどが、インフレの影響を抑える点で奏功した。

▽通期予想は大幅に上方修正した。資材価格や人件費の上昇を反映させる一方、円換算レートを見直し、原価削減活動も反映させた。
 

  グループ造船2社


▽函館どつくは、新造船事業の順調な進捗と円安影響などにより、4〜9月期純利益が10億円。佐世保重工は純利益は5億円だった。佐世保重工は昨年秋に改修したドックを今期はフル活用できているほか、要員の育成強化が進んだ。

▽当社が実施した資本政策により、函館・佐世保とも財務基盤が格段に強化された。函館は新造船事業と修繕船事業の強化、佐世保は修繕船事業を柱とした事業構造改革を進め、両社の収益力向上と安定収益体質の構築を加速させる。

▽(佐世保の新造船再活用について)現時点では修繕の事業を進めることが重要。新造船用の敷地や設備の活用策は検討中だ。
 

  新造船事業


▽伊万里事業所は広大な敷地と設備を背景に高い競争力を維持しており、国内の有力船社などとの友好関係を背景に、グループの技術をリードしていく。9月に初の大型LPG兼アンモニア運搬船(VLGC)、11月に初のLNG燃料船を引き渡した。VLGCは今後の主力商品として取り組んでいきたい。足元はケープサイズの連続建造効果を発揮して収益改善を図っている。函館どつくは今年3月末にフェリーを竣工した。今後はハンディ・バルカーと国内向けフェリーで運営する。

▽受注面では4〜9月に大型バルカーなど12隻を受注し、9月末時点の受注残高は2778億円。今後は巡航速度である2.5〜3年分程度の受注を維持し、リードタイムを確保してコスト削減を図る。3年以上先物の納期は各種リスクを慎重に見極めながら判断していく。

▽新造船需要は、短期的な変動はあるものの、世界的なコスト増、韓・中造船所の受注残増加、不況で船隊リプレースが遅れたことなどから堅調だ。老朽船代替や環境対応船の需要喚起等により、今後需要が急拡大し、新たな成長局面に入る。当社も需要をとらえるため、伊万里と函館の新造船の生産量を拡大する。日本造船所のシェア低下や人材確保などの状況を踏まえて成長の波に乗るための施策を行う。売上規模は、為替変動にもよるが、生産量増に伴い増加させていきたい。

▽顧客満足度の向上を図る点では、環境対策への考え方がめまぐるしく変化しているため、マーケットニーズを的確に把握するため国内船社との密接な関係が一層重要。また、VLGC建造という大きなチャンスを得て、多様な船種を持つことになったので、営業と開発が連携して製品開発を進める。アフターフォローを含めた建造船の品質確保が日本造船所の強みであり、さらなる体制の強化に取り組む。
 

  修繕船事業

 
▽グループは函館どつくの函館造船所と室蘭製作所、佐世保重工の計3拠点で11基のドックと上架船台を持つ。佐世保重工は新造船ドックの修繕船併用への改修工事を昨年秋に完了し、計5基のドックと総延長1200mの岸壁を有する国内最大級の修繕ヤードになった。旧新造船部門から修繕船部門への要員移動と教育も順調に進んでいる。

▽修繕マーケットは中国・東南アジアのドック回復で厳しい価格競争になっているものの、官公庁船分野が海上自衛隊と海上保安庁の配備隻数増加や防衛予算の大幅増で修繕需要拡大が見込まれる。また2024年問題に伴うモーダルシフト進展で船舶の輸送需要が増え、船舶の検査・修繕需要も増える。環境対応船の工事受注への対応も必要。東北・北海道では洋上風力発電向けの船舶の修繕事業が将来的に期待できる。

▽全国的に人手不足が進む中で、人材確保と技術力向上が課題。積極的な採用、人材育成、グループ間での協力や協力会社との関係強化が重要だ。
 

  競争力強化対策の取り組み


▽新造船事業は、人材確保策と、新造船需要拡大を見越した生産能力拡大が大きな課題。生産量拡大するための最大のネックは人材確保。九州は少子高齢化の影響が大きく、半導体工場の新設などで採用が厳しい。工場見学会などを通じて造船業の魅力を発信し、高卒・大卒・経験者の採用強化を図る。女性活用促進、外国人技能実習生の継続活用も進める。

▽国内の生産年齢人口減少への対応や、競争力強化のためには、省人化・効率化が必須。スマートファクトリー化を加速させる。AIやIoTなど最新技術を適用した造船業近代化を目標に、2021年度から専門部署を設置して取り組んできた。現在は第1ステップとして、製造現場のアナログ情報の電子化や、IoT化による設備稼働情報や作業者の工数実績などのデータを蓄積して見える化し、業務改善や生産性向上に取り組んでいる。第2ステップでは、蓄積したデータを基にしたビッグデータマネジメントや、生産設備への投資も含めて、成長基盤を整備する。

▽グループとしてESG経営への取り組みをより具体的に進めるため、従来の組織を改組してESG委員会を設けた。
 

  設備投資


▽伊万里事業所はスマートファクトリー化に着手し、工場の見える化に取り組んでいる。先進技術導入への調査研究開発も開始した。

▽設備の老朽化対策も喫緊の課題。伊万里事業所のメイン工場である第一船殻内業工場の補強工事に2022年度から着手した。艤装岸壁も2020年度から補修工事に着手しており、付帯設備なども整えて、艤装期間の短縮などを図る。いずれも2027年度に完了予定。機械設備は重要度の高いものから予防保全を実施し、各種設備の代替も計画的に実施している。

▽環境負荷低減をグループ経営の重要課題と捉え、省エネ機器導入や機械設備の運用改善に積極的に取り組んでおり、6年連続で省エネSクラス認定を受けた。

▽今後の投資計画としてはスマートファクトリー実現に向けて、生産現場のモニタリング、生産ライン化・ロボット化を進めるほか、省エネ機器への更新や老朽化対策を行う。伊万里の設備投資は従来の年12億〜13億円から増やす。佐世保重工は修繕事業と機械事業の老朽化設備の維持更新に順次対応する。機械事業では、経済安全保障推進法に基づくクランク軸製造設備への補助金を活用する。函館どつくも老朽化設備のリプレース、修繕船事業拡大に関わる生産設備と増加人員の受け入れ体制強化への設備投資を進める。
 

  技術開発


▽技術開発に専門で取り組む技術開発センターを開設して5年が経つ。船尾付加物の開発や代替燃料船、帆などの取り組みを行っている。現在は商船三井と三菱造船と共同でアンモニア燃料の大型アンモニア船の共同開発を行っているほか、NSユナイテッド海運と帆の開発を進めている。

▽新製品開発については、営業部門と設計部門が共同で顧客を訪問し、情報の収集・分析を行い、グループで建造する各船型の開発を技術開発センターを中心に行っている。船尾付加物の追加や最適主機選定などにより、EEDIフェーズ3をクリアし、さらなる削減率に取り組んでいる。


  人員規模と採用


▽今年4月時点で名村造船所は1064人。今期の新卒採用は約50人を予定。インドネシアからの外国人技能実習生は今年4月時点で60人だが、順次増やしている。
 
▽函館どつくは人員476人、採用は約10人。佐世保重工は人員366人、採用3人を予定。

▽就業環境の改善も進める。伊万里の本館事務所の環境整備なども経営課題と認識している。造船業の見通しが明るくなってきており、地方で世界に向けて船を造っている会社としてPRも進めたい。
 

  機械事業


▽佐世保重工の舶用クランク軸は、新造船建造量増加で需要の伸びが期待される。原材料のインゴット価格高騰が高騰しているため、調達多様化を進め、生産量も増加してコスト低減を図る。


  保有船事業


▽現在も保有船はあるが、船舶保有事業(の本格化)は重要テーマ。不況になったら持つということでは事業にならないため、どう取り組むか考えている。大きな投資も必要であり、船舶管理や人材などの体制も整える必要がある。
 

  鋼材問題・調達


▽中国・韓国の鋼材価格が下落基調であり、高止まりしている日本製との価格差が非常に大きくなっている。日本造船所として競争力の根幹に関わる問題。中国造船所が鋼材価格低下を受けて船価を下げての受注も見られる。鋼材の内外格差を原因としたコスト競争力の差が生じることを懸念している。会社としては、設計段階で鋼材使用量をいかに減らせるか、鋼材をいかに有効活用して歩留まり良くしていくかを追求する。

▽資機材調達は、多様な調達リソースの確保が安定かつ競争力ある価格での調達につながると考えている。また造船不況でメーカーの数が減り、サプライチェーン強化が喫緊の課題のため、国内外含めて見直しを進めている。
  • カーゴ