2023年6月26日無料公開記事
鋼材価格、船価相場を揺らす
各国の鋼材市況変動が新造船価に影響
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鋼材価格の変動が造船所の競争力の差に
造船所のコストが全般的にインフレ基調にある中で、特に鋼材の値動きが船価動向に大きな影響を及ぼしている。各国造船所ともにコストに見合う水準への船価の引き上げを図ってきたが、一時は中国造船所から競争力のある船価が提示された。これが中国産鋼材の下落局面とタイミングが重なっており、「鋼材価格の下落幅に合わせて安値による受注を進めた」との見方が強い。日本産と韓国産の鋼材は高止まりが続く中、中国造船所が調達する鋼材価格の変動が競争力の差として現れている。
日本と中国の造船所の船価差は、以前に比べて近年は縮小している。背景には、コストインフレと船台不足がある。2018年から鋼材価格が急騰し、さらに、素材インフレでさまざまな造船用資機材の価格が上昇。足元では人件費も上昇しているため、各国とも造船所のコストが全般的に上昇傾向にあり、これに見合った船価水準への引き上げを図ってきた。「調達費と人件費が各国ともに同じようなインフレになったことでコストの差があまりなくなった。以前は船価差の大きな要因になってきた償却負担の差なども相対的に小さくなった」(造船所経営者)。
一方で新造船市場では最近、中国造船所と日本造船所で提示する船価の差が再び広がる局面があった。この背景は「ほぼ鋼材の価格差で説明がつく」(造船経営者)。中国産鋼材は昨年、過剰生産などを背景に価格が急落した。中国造船所に流通しているとされる安値鋼材の価格と、高止まりする日本産鋼材との価格差が大きく開き、「円安換算でも半値近い差」となり、「中型バルカーの鋼材使用量で換算すると数百万ドル規模のコスト差」(同)を生んでいたと分析されている。中国造船所は、この安値の鋼材を前提とした船価提示が可能となった、との見方だ。
鋼材価格は、厚板だけでなくエンジンやタンクなどさまざまな部材の価格にも影響する。各国の造船所ともに最近は、鋼材の国内調達が基本となってきたため、その国の鋼材価格に造船所の競争力が大きく影響を受ける形になってきた。
中国産鋼材も今春から再び上昇に転じるなど鋼材市況は揺れている。鉄鉱石と原料炭の価格が下落する見通しとなり、今後の鋼材価格をめぐる状況が変わる可能性もある。とはいえ「造船所としては、バルカーやタンカーの船価はこれまでのコストアップにまだ追いついていないため、もう一段の船価引き上げが必要」、「商談が4年も先物の納期になると、足元の価格の上下を見積もりにすぐ反映させるわけではない。むしろ、長期インフレを前提にせざるを得ない状況」(造船経営者)と、船価の見積もりが揺れるわけではない、との立場を造船所はとる。中国も主力造船所は船台が埋まっているほか、人件費も上昇しており、本来は船価を下げる状況にはないが、「新興の造船所も再び登場しているため予断は許さない」(造船所営業担当)との懸念もある。