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2022年9月27日無料公開記事

日立造船、舶用エンジン事業分社
今治造船が35%出資、日本プスネスも買収

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 日立造船と今治造船は26日、日立造船が舶用ディーゼルエンジン事業を分社し、分社会社に今治造船が35%出資することで基本合意したと発表した。来年4月に新会社の事業を開始する予定。両社は、ディーゼルエンジンの安定調達・供給体制の構築やコスト低減、研究開発強化を図る。今治造船が舶用エンジン会社への出資を志向していることは昔から知られていたが、国内2位の日立造船のディーゼル事業への出資となった。また日立造船の連結子会社の甲板機器メーカー、日本プスネス(下関市)の保有全株式を今治造船が取得することでも合意した。

 分社と出資の対象事業は、日立造船の舶用原動機の製造とアフターサービス事業で、売上規模は約200億円。12月に両社は最終契約書を交わす。日立造船が会社分割などにより事業を移管し、今治造船は第三者割当増資の形で出資する予定。新会社の社名や設立日、資本金は未定。出資比率は日立造船65%、今治造船35%で、日立造船の連結対象会社となる。日立造船が指名した取締役1名が代表取締役となる。
 今治造船の出資により、それぞれが舶用原動機の安定的な供給・調達を図るとともに、ディーゼルエンジン事業の販売供給網の強化による売上拡大、今治造船の資材調達力を活用したコスト低減を通じた収益性向上、開発投資資金の確保を通じた開発体制の強化を実現するねらい。
 日立造船は現在、舶用低速エンジンの2大ブランドであるMANエナジーソリューションとWinGDの双方のライセンスを持つ日本唯一のメーカー。これまでの生産累計は2975台・約4285万馬力で、本紙調べによると昨年の生産量は45台・82万馬力。首位の三井E&Sマシナリーの126台・286万馬力に次ぐ国内2位となっている。また近年は、脱硝装置(SRC)の独自開発やLNG燃料エンジンのメタンスリップ削減開発などで日立造船の触媒技術が生きており、その総合開発力にも注目が集まっていた。
 一方で、日本プスネスの保有全株式90.5%については、10月31日付で今治造船に譲渡する。売却額は非開示。日本プスネスは船のアンカーを揚げ降ろしするウィンドラスや、船を岸壁に着ける係留装置であるムアリングウィンチなどを専門に手掛ける。22年3月期の売上高は39億円。今後は今治造船のノウハウとネットワークを利用し、競争力強化を図る。
【解説】舶用エンジン業界は、脱炭素化に向けた船舶の燃料転換に伴い、研究開発と設備投資が大きなテーマになっている。また国内造船所の海外との船価競争を背景に、コスト競争力の強化も必須となっていた。このため日本国内では連携志向が強まっており、最大手の三井E&Sホールディングスが今年、IHI原動機の舶用大型エンジン事業の取得に向けた協議を開始。ジャパンエンジンコーポレーションと川崎重工、ヤンマーパワーテクノロジーは昨年来、水素燃料エンジン開発で連携している。
 日立造船はもともと、祖業の造船事業とともに社内で舶用原動機事業を運営していたが、2002年に造船事業を分社し、昨年にはジャパンマリンユナイテッド(JMU)の保有全株式をJFEとIHIに売却したことで、大型商船建造と原動機事業のシナジー効果が薄れており、原動機事業の去就が注目されていた。こうした中、エンジンの主要顧客の1社だった、造船国内最大手の今治造船を新たな事業パートナーとし、勝ち残りを図ることになった。
 一方、今治造船はこれまで、ディーゼルエンジン会社への出資や提携などを模索していることが、昔から業界内でも知られていた。
 今治造船は長年、造船業と船主業の両輪経営を軸とし、造船所を対象としたM&Aと大型設備投資によって生産規模を拡大しつつ、保有船隊も大型化してきた。しかし近年はM&Aの対象を舶用メーカーに広げている。かつてはメーカーには少額出資はしていたが、2018年には子会社を通じて航海機器メーカーの横河電子機器(現YDKテクノロジーズ)を買収。また昨年5月には中国塗料と資本業務提携を交わし、グループの正栄汽船とともに中国塗料の株式を最大10%程度まで取得することで合意している。新造船の建造規模が拡大するのに伴い、調達する資機材のボリュームも増えており、シェアの高いメーカーへの資本参加を通じた安定調達体制の構築や、共同開発などを通じたイノベーション力の創出などがねらいとしてあった。
 特に、国内建造量トップの造船所としては、最重要資材の1つである主機関の安定調達は大きなテーマだったもよう。舶用ディーゼルエンジン会社への出資などを通じた関係強化が模索されていた。今回の日立造船のディーゼル事業への出資と、昨年来のJMUとの資本業務提携により、造船業と船主業の二軸経営から転じ、多方面の事業への出資を通じた海事総合グループ的な姿を一層強める。
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  • 増刊号日本郵船