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2022年7月21日無料公開記事

前期新造船129隻受注、過去2番目
今治造船、鋼材高で船価調整条項の導入検討

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 今治造船の幹部が20日、都内で記者会見を開き、事業の現状などを報告した。この中で、2021年度の新造船受注が過去2番目となる129隻に達したことを明らかにした。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)との合弁会社日本シップヤード(NSY)を通じて、営業面での情報拡大など相乗効果が上がったとした。一方で今期については、檜垣幸人社長は資機材価格高騰リスクを踏まえて「受注を進めて良いか迷っている」とし、鋼材に連動して契約後に船価を調整する条項の導入について船主やオペレーターと相談する考えも明らかにした。

 会見には檜垣社長と檜垣和幸専務、檜垣清志専務、藤田均専務、渡部健司常務が出席した。概要は次のとおり。
<新造船市況と事業方針>
 ▼昨年は1月にNSYが発足し、春ごろからバルカーの引き合いが殺到し始めて、船価も上昇を続けながら受注を進めた。21年度はNSYを通じて過去2番目となる129隻もの受注を果たした、バルカー、コンテナ船、LNG燃料自動車船の受注を進めることができた。LNG燃料自動車船やLNG燃料ケープサイズなど次世代燃料船の受注も増えており、今後もコンテナ船を含めて引き合いが堅調に続くと考える。コンテナ船は1万~1万5000TEU級の引き合いが多く、この半分の大きさの6000~7000TEU級は隻数も倍必要になるので、このあたりを狙っていきたい。
 ▼当社は19年度に過去最高の530万総トンを建造しており、キャパシティとしてはここまで建造できる。だが鋼材高や調達問題を考え、安定操業を優先して、今はピーク比15%減の操業量としている。ここが適正操業だと感じている。調達の交渉力も考えると現状の規模は維持したい。本当はあと10%程度高めたいが、難しい。さらなる鋼材価格上昇リスクを考えると、このまま受注を進めて良いのか、迷っているのが正直なところ。為替でフォローが吹き、ドルベース船価も上がっているが、全て鋼材・資機材価格アップで取られそうな感じがする。これまでも造船業は変動にさらされてきたが、10数年ぶりに船価が戻ったにも関わらずこれほどコストが上がるのは、今まで経験がない。今は(生産量を増やして)稼ぎを大きくするよりも、生き残ることが最優先と考えている。
 ▼先物受注を進めようにも、資機材価格高騰を反映した船価を受け入れていただけないジレンマに陥っている。そこで、船主・オペレーターとは鋼材価格に船価を連動させるクローズ(契約条項)を作れないか協議している。現在、指標をどうするか等で議論しており、海外の顧客は面白いと言ってくれている。スライド制にすることで、顧客も鋼材価格や円安メリットを得られるかもしれないし、為替変動リスクを吸収でき、お互いにとって良いやり方があるのではないかと思っている。
 ▼地政学リスクに対し、資機材価格、サプライチェーン、為替変動などの影響を大きく受けているにも関わらず、先物を固定価格で受注する造船業の経営は非常に難しいと感じている。全世界が長期的視野でものを考えられるようになってほしい。
<竣工量と業績>
 ▼21年度の新造船竣工量は60隻・346万総トン(513万重量トン)。内訳は、バルカー21隻、コンテナ船25隻など。大型船建造により、前年度から隻数は大幅に減ったが、総トン数はほぼ横ばい。売上高も3652億円とほぼ横ばいだったが利益は確保した。
 ▼今年の業績は、為替がここまで円安になることを想定していなかったため、円安メリットを最大限に享受できず、昨年の急激な鋼材価格の値上げが竣工船の収益を圧迫してくると予想される。何とか黒字を確保できるよう努力したい。
<JMUとの提携>
 ▼当社はトップダウン型、JMUはボトムアップ型で営業スタイルが異なるが、相乗効果で営業の情報量が圧倒的に高まり、この効果でNSYを通じて過去2番目の受注を果たした。この点は両社も認め合い、一緒になってよかったと思っている。
 ▼これから2万4000TEU型コンテナ船を皮切りにNSY設計船の建造が始まる。今後は両社の仕様・施工方法の統一を図り、どちらの船台で建造しても大きな図面変更のないようにしていきたい。当社の強みは全ての船型に対応できることであり、チップ船、VLCC、MR型タンカーも連続建造するなどリプレース需要を予想しながら新船型開発に取り組んでいく。新燃料船開発は、お互いが持つ船種で開発対象が2倍になるため、開発人員を有効に活用して素早く対応できるよう進めている。
<設備投資>
 ▼昨年3月に初のLNG燃料船を川崎汽船向けに竣工したが、中国に発注していた燃料タンクが3カ月遅れた。将来的な安定操業を考え、邦船3社の期待に応えるために燃料タンクの設備投資に踏み切った。西多度津事業部でLNG燃料タンクの内製化に向けた設備投資を行っており、モックアップ製作を経て年度内の生産開始を予定している。当面は年間12タンク、6隻分のペースから生産開始する計画。今後の増産や他社向け生産も検討課題だ。
 ▼福利厚生として新笠戸ドックに独身寮の建設を計画している。その他、老朽設備の更新は続けていく。
<技術開発・新製品開発>
 ▼NSYで環境対応船の開発に集中している。LNG燃料船やメタノール燃料船は既にプロトタイプの竣工実績船があるので、今後は各種船種・船型に対応できるよう、企画・開発を進める。アンモニア燃料船は安全性確保の観点から各機器メーカーや船級と技術的議論をするとともに、オペレーターとも意見交換を行い、実証船の計画・設計を進めている。
 ▼新規の船種開発として、パワーエックスと資本業務提携を結び電気運搬船の共同開発を進めている。また基本性能向上として船型開発、風力利用も進めている。丸亀事業本部の船型開発センターではISOを取得し、エネルギー効率設計指標(EEDI)試験が可能になった。NSYとしてJMUの津の水槽とのコラボによって船型開発が倍増し、開発スピードの一層の向上を進める。
<LNG運搬船の建造の可能性>
 ▼当面はリソースをLNG燃料船に集中する。当社はグループで計12本の建造船台があり、うち2~3本でLNG燃料船の建造に取り組む。2018年にLNG運搬船2隻を建造した際に担当した当時30~40歳代の若手が、いま各工場でLNG燃料船に対応しようとしている。LNG運搬船はやらないわけではないが、現在の顧客の要望はLNG燃料船の方が多く、隻数も多いため、まずはこちらに応える必要がある。LNG運搬船を建造しようとすると対応できるのは1船台で、年間最大でも4隻程度しか建造できない。ステンレスなど資機材価格リスクもある。当社は建造規模が大きいため、隻数と顧客の要望を聞きながら判断していく。引き合いが強ければ、その後にLNG運搬船も手掛けたい。
 ▼三菱造船との合弁会社MIーLNGには、LNG燃料船の燃料供給装置(FGSS)のエンジニアリングなどを依頼している。
<人員規模・採用>
 ▼今年度は64人の新入社員が入社し、計1718人となり、全社員の平均年齢は37.1歳となった。来年度も70人程度の採用を予定しているが、地元採用や中途採用を増やしていきたい。
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