2022年8月17日無料公開記事

薄れる過熱感、業績予想は堅調
コンテナ市況、正常化には時間も

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn

需要減で短期運賃の下落が続いている

 海上コンテナ運賃の下落傾向が続いている。昨年末のピーク期と比べ、北米西岸・東岸は25%前後、欧州向けでは37%と大幅に下落しており、過熱感は徐々に薄れつつある。大手コンテナ船社の2022年通期業績は、上期までの好調と長期契約運賃の上昇に支えられて、21年並みかそれ以上の業績が見込まれているが、今後は需要鈍化に伴う供給過剰への対処が課題となりそうだ。一方で、世界各地ではなおさまざまなサプライチェーン上のボトルネックが残っており、コンテナ市況の安定化にはなお時間を要しそうだ。

 表は上海航運交易所が公表するSCFIから、北米西岸、東岸および北欧州向けのスポット運賃の推移について、2020年1月から先週末までの動きを取りまとめたもの。各航路とも、21年末ないし22年初頭をピークとして下落傾向が続いている。
 北米東岸向けでは一時、運賃がFEU当たり1万2000ドル近い水準に達していたが、6月末に1万ドル台を割り込んだ。北米東岸向けのスポット運賃が1万ドルを下回るのは1年ぶりのこととなる。下落傾向はその後も続き、先週末時点では9106ドルまで低下。また北米西岸向けは21年末にピークに達したのち、東岸や北欧州に比べて底堅く推移する期間が続いたが、6月末から急速な下落傾向が出ている。
 特に下落率が大きいのが欧州向けで、現在の運賃水準は昨年後半のピーク期の3分の2の水準にまで下落した。年初から始まった下落傾向が、対ロシア制裁に伴う輸送需要の減少、次いで上海ロックダウンとで加速。5・6月はやや落ち着きを取り戻したが、足元では再び下落傾向を強めつつある。既に昨年前半に発生したスエズ運河封鎖事故前の水準へと近づきつつある状況だ。
 船社関係者は「欧米各国で進むインフレを背景に、消費動向が変わりつつある」と指摘する。マーケット全体が急激に冷え込んでいるわけではなく、顧客によっては依然として旺盛な輸送需要が続く一方、やや失速傾向となった顧客もあり、状況はまだら模様だ。「ロサンゼルス/ロングビーチ沖の混雑が緩和し、以前に比べてスケジュールが回るようになってきたことで、実効船腹が増えてきたことも影響している」との見方もあり、需要減と一定の供給回復が重なったことで船腹需給の緩和が続いている状況だ。
 消費動向にも陰りが見え始めている。全米小売業協会(NRF)はこれまで、9月頃まで高水準の輸入量が続くとの見通しを立てていたが、今月の発表では「今後、小売り関連の輸入コンテナ貨物は減少傾向が強まる」と見通しを下方修正した。経済成長の鈍化に伴って小売り関連貨物の輸入にも減速感が見られ、下期(7~12月)の輸入量は前年同期比で減少に転ずる見通し。上期までの好調により、通期ではなお前年比プラスを維持するが、NRFは「23年には減少幅はさらに大きくなる」と見込んでいる。
 足元で下落が続く一方、今期のコンテナ船業界の業績はなお好調が続きそうだ。マースクは今月、今年に入って2度目となる業績見通しの上方修正を行い、EBIT(利払い前・税引前当期利益)の予想額を従来の240億ドルから新たに310億ドルへと大幅に引き上げた。またハパックロイドもマースクと同様、今月に入って今年2度目の上方修正を行っており、EBITで従来の125億~145億ドルから新たに175億~195億ドルへとそれぞれ引き上げた。両社とも、今期業績が仮に予想値のなかで最も低い水準となったとしても、21年業績は大幅に上回ることとなる。上期までの運賃マーケットが、21年同期比でなお高い水準で推移していたことに加え、大幅に上昇した長期契約運賃が業績を下支えする。足元では、前半に結んだ長期契約運賃とスポット運賃との間で逆転現象が起きており、長期契約の再交渉を行おうとする動きも出ているものの、現時点では大きなトレンドとはなっていないようだ。 今のところ、10月の国慶節以降から正常化に向けた動きが本格化すると予想されている。景気後退への懸念が徐々に高まっており、一方で23年には新造船竣工量も大幅に増えることから、船腹需給の軟化傾向は今後加速しそうだ。ただ、世界各地になお残るサプライチェーンのボトルネックがなお不透明感を投げかけている。北米東岸や北欧州の港湾での混雑やスト懸念、北米内陸の鉄道混雑、中国のゼロコロナ政策と不安要素は非常に多く、需要減が素早く正常化に繋がるかどうかはなお疑問が残る。正常化は24年以降と予想する声もあり、コロナ禍後のコンテナ船のニュー・ノーマルの姿はまだ見えていない状況だ。
  • 増刊号今治
  • 海事プレスアプリ