2023年9月12日無料公開記事

【特集】
浮体式洋上風力導入へ取り組み進む
GI基金事業は技術開発から実証へ

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浮体式洋上風力発電の導入に向けた動きが加速しつつある。
政府は「洋上風力産業ビジョン(第2次)」の策定に向け、6月に国土交通省と経済産業省が合同で「浮体式産業戦略検討会」を開催するなど、浮体式洋上風力産業の在り方など検討を進めている。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金事業で2020年度から進められてきた浮体式洋上風力の研究開発は今年度が最終年度で、フェーズ2となる実証事業実施に向けた動きが待たれる。同時に、造船所をはじめ各企業では「セミサブ型」「スパー型」「TLP(緊張係留型)」という浮体方式のメリット・デメリットを考慮したうえで海域に合わせて選択し、技術開発を進めつつ実証に向けた準備も進めている。


■4類型の浮体、開発進む


 浮体式洋上風力発電に適した水深は50〜60m以深とされている。世界エネルギー風力協会(GWEC)によると、洋上風力資源のポテンシャルがある海域の80%が水深60m以深で、2030年以降、浮体式洋上風力発電が急激に加速することが予測される。また、GWECは2030年までに浮体式洋上風力市場は16.5GW(ギガワット)に達すると予想している。世界でも日本でも、まずは着床式に対応した、沿岸に近い比較的浅い海域で洋上風力の導入が進むが、早晩、浮体式へとそのフィールドは移行すると見られている。

 開発が進む浮体基礎は世界全体で数十種類に及ぶとも言われているが、主に「セミサブ型」「スパー型」「TLP型」「バージ型」の4類型に分類される。

浮体のイメージ。左からセミサブ型、TLP型、スパー型、バージ型

 セミサブ型は半潜水型のプラットフォームをカテナリー(懸垂曲線)係留で海底とつなぐ方式だ。その中でもフーティング型と呼ばれるものはコラムと呼ばれる支柱3本または4本で構成される。大型のため造船ドックでの製造が難しいなどの課題があるが、適用範囲が広く、汎用性が高いのが特徴だ。

 スパー型は円筒状の浮体構造物で、カテナリー係留で海底とつなぐ。シンプルな構造ゆえに製造が容易であり、低コスト化に向いている点が特徴だ。喫水が深いため、水深が深い海域が適用範囲とされている。

 TLP型は緊張係留が特徴で、係留索を垂直方向に海底に固定しテンションをかけることで安定させる方式だ。コンパクトな構造で、復原性が非常に高い。設置作業が難しいなどの課題もあるが、海面下における係留索の占有面積が小さいことから、漁業などほかの海域利用者への影響がほかの浮体形式に比べ小さく、社会受容性が高いとされている。

 バージ型は底面が平らな箱船型の浮体に風車を設置するもので、ポンツーン型とも呼ばれる。カテナリー係留され、水面との接触面が増すことで浮体の安定性を高めるものとなっている。ただし揺れやすいことからほかの浮体形式よりも静穏な海域が適しているとされている。構造がシンプルで比較的小型のため建造コストが安いなどの特徴がある。
 

■低コスト化の技術開発


 NEDOはGI基金事業で洋上風力発電の低コスト化に取り組んでいる。要素技術開発を目的とするフェーズ1の1つである「浮体式基礎製造・設置低コスト化技術開発事業」は2030年までに一定条件下で浮体式洋上風力発電を国際競争力のあるコスト水準で商用化する技術の確立を目標とする。造船技術や建設インフラなどを活用しながら各種浮体の最適化、大量生産技術を確立し、先進的な浮体・係留システムを世界に先駆けて開発するもの。同事業では計6件のテーマが採択されており、うち日立造船らのコンソーシアムとジャパンマリンユナイテッドらのコンソーシアム、東京ガスの3件がセミサブ型、東京電力と戸田建設の2件がスパー型、三井海洋開発らのコンソーシアム1件がTLP型で研究開発を進めている。事業期間は2021年度から原則最大3年間で、今年度が最終年度となる見込みだ。

 また、同事業はフェーズ2として、システム全体として関連要素技術を統合した浮体式実証を行う予定だ。実施の際は、新たな促進区域の創出など拡張性あるプロジェクトを実施していく必要があるとしている。今年2月には実証事業を行う海域の選定に向けた情報提供の受付を開始した。実証フィールドは2カ所程度が想定されており、再エネ海域利用法に基づく「促進区域」「有望区域」「一定の準備段階に進んでいる区域」のどの区域にも整理されていない区域を対象とする。また、将来、候補区域に隣接する区域の促進区域化を目指していることなどを必須事項としている。
 

■浮体式の導入目標策定へ


 政府は2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」において、洋上風力分野で浮体式洋上風力の導入目標を掲げ、その実現に向け、技術開発・大規模実証を実施するとともに、風車や関連部品、浮体基礎など洋上風力関連産業における大規模かつ強靱なサプライチェーン形成を進めることとしている。また、排他的経済水域(EEZ)への拡大のための制度的措置を検討する。

 国土交通省と経済産業省では6月から「浮体式産業戦略検討会」を開催。洋上風力発電のさらなる導入を図るため、今後普及拡大が期待される浮体式洋上風力にかかる産業の在り方などを検討することを目的としている。検討会では浮体製造事業者や発電事業者、風車メーカー、業界団体など浮体式産業に関わるさまざまな関係者からヒアリングを行っている。最終的には官民協議会において「洋上風力産業ビジョン(第2次)」を取りまとめる予定だ。