2025年5月9日無料公開記事

記者座談会/海運この1カ月<下>
米関税・中国船措置の影響懸念
コンテナ船、中国発米国向け減少で欠便増

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 米国の関税施策や、米国通商代表部(USTR)が発表した米国寄港地時における中国関連船への入港料課徴施策によるコンテナ船への影響が懸念されている。大幅なコスト増につながるほか、需給に大きな影響を及ぼすため、運賃マーケットも今後大きく変動する可能性がある。日本港湾では港湾春闘の交渉が難航しており、組合は連続して24時間ストライキを実施している。5月19日以降は平日も含めた無期限時間外の作業拒否を通告しており、14日の交渉が正念場となる。


米関税で荷動き減退

司会 米国の関税施策により、海上コンテナ物流にも影響が出始めている。

― 関税施策の影響で、中国発米国向けのコンテナ輸送需要が急減し、4月中旬以降は特に中国発のブッキングキャンセルが相次いた。こうした中、船社としてもサービスの欠便などで対応した。需要に対して供給調整を迅速に行ったことで、中国発米国向けのスポット運賃の大幅な下落は起こらなかった。

― 確かに上海航運交易所がまとめるSCFIによると、4月30日付の上海発米国西岸向けのスポット運賃は2272ドル/FEU、上海発米国東岸向けは3283ドル/FEUとなった。4月の1カ月間の下落率(4月4日比の下落率)は西岸が1.8%、東岸が0.7%となっており、予想したほどは大きく下落しておらず、むしろ安定している。

― しかし、懸念するのはこれからだろう。米国の港湾関係者からは、年後半以降に10%以上の荷量の減少を予想する意見も出ており、早ければ5月から急減するとの声もある。現在は相互関税の一部が一時停止されているが、90日間の猶予が終わった後に、再び課徴されるのかも心配される。現在、各国・地域が米国と関税交渉を始めているが予断を許さない状況だ。

― 品目別の関税施策の影響もある。米国は4月3日に輸入自動車に対する追加関税25%を発動し、今月3日からは自動車部品に対しても導入した。日本海事センターがPIERSの統計を基に集計しているアジア18カ国・地域発米国向けのコンテナ輸送統計によると、2024年通年(1~12月)における車両機器およびその部品の輸出量は前年比19.1%増の72万1505TEUとなり、アジア発輸出量全体の3.4%を占め、品目別には8位となる。また自動車部品の輸出量は13.1%増の74万6395TEUとなり、輸送量全体の3.5%を占め、品目別には7位となっている。いずれもアジア発の主要輸出品目となる。

― 自動車は日本における輸出の基幹産業となっており、米国は一大マーケットだった。関税の影響によって日本発の輸出が短期的に減少する可能性があるほか、中長期的には完成車の生産移管やサプライチェーン全体の見直しが進む可能性がある。自動車産業は裾野が広いこともあり、アジア域内などの部品輸送などにも悪影響が出ることも懸念される。

― 日本政府としては、自動車や自動車部品、鉄鋼・アルミニウムへの関税も含めた一連の関税措置の見直しを米国に求めているが、現時点では日米の立場に隔たりがあるようだ。関税交渉がどのように推移するかで、将来のコンテナ荷動きの動向が変化しそうだ。

中国船措置、需給に影響か

司会 USTRによる中国関連船への入港料措置の影響も懸念される。

― USTRは先月17日、中国船社の保有船や運航船、中国建造船に対する米国寄港時の入港料課徴施策の内容を発表した。2月に明らかにしていた当初提案からは、パブリックコメントや公聴会を経て、大幅に修正されたが、入港料の課徴は船社にとって大幅なコスト増の要因となる。

― 各コンテナ船社は、「船社だけで負担するのは難しい。顧客にも転嫁することになるだろう」と口を揃える。サーチャージでの課徴になるのか、ベースレートの引き上げになるのかは不透明だが、価格転嫁に当たっては米連邦海事委員会(FMC)の動向にも注目する必要がある。サーチャージの課徴に当たっては、法令・規制上の要件を順守しているか監視を強める可能性もあるためだ。

― 今回の措置で最も影響を受けると想定されるのが、コスコグループだ。オーシャン・アライアンスにおいては、CMA-CGMやエバーグリーン・マリンが北米航路に本船を投入する傾向が高まる可能性がある。

― コスコグループは、アジア―北米航路において高いシェアを誇る。仮にコスコグループによる同航路の投入船が減れば、マーケット全体にも影響が出る可能性がある。

― その他の主要船社においても、入港料の課徴を回避するため、中国建造船をアジア―北米航路から外すと見られる。中国建造船の保有比率は船社によって異なるため、影響度合いも違ってくるが、マーケット全体で見ると非中国建造船のみで対応できるのかも懸念される。船腹不足となれば、運賃は上昇する。

― この場合、高い運賃が見込めるアジア―北米航路に、入港料のコストがかかる中国建造船を投入するのか、投入しないのか、船社の判断は分かれそうだ。コストに対して、運賃収入が高く、収益を見込めれば投入する可能性もある。一方で、輸送需要と船はあるのに中国建造船の投入を躊躇することは、そもそものマーケットの原理を歪めるとも指摘できる。

― 一方で、関税施策の影響で輸送需要が減少することで、航路数が調整され、必要とされる船が減る可能性も考えられる。船腹不足が起こらないという想定もできそうだ。

― トランプ政権が終われば、一連の施策もまた変わっていくとの想定もあるが、仮に施策が続いた場合、中長期的に影響が大きくなることも考えられる。足元のコンテナ船の発注残は中国造船所が高いシェアを持つからだ。段階的に中国建造船の比率が高まっていけば、北米航路に投入せざるを得なくなるコンテナ船も増加してくるかもしれない。

― 先月末には米国の超党派議員が、米国商船隊と米国造船業の競争力強化を目的とした新法案を米連邦議会に提出した。昨年12月に提出された「シップス・フォー・アメリカ・アクト」を補強した内容となり、USTRによる中国関連船措置よりもさらに厳しい内容となる。

― アフタートランプの時代も対中国関連船への措置が続く可能性がある。変化する状況に柔軟に適応していくことが求められている。

港湾春闘、スト拡大懸念

司会 4月は日曜の24時間ストライキが3回実施された。

― 2月にスタートした2025年港湾春闘は4回のストライキを経て、現在も継続中だ。これまでに3月30日、4月13日、20日、27日の日曜の24時間ストが実施された。これまでの経過を振り返りたい。

― 今年度も組合側は大幅な賃上げを最重要課題とし、各単組・職場で要求する所定内賃金について、3万円以上あるいは10%以上の賃上げ要求に誠意をもって回答することなどを求めている。第3回中央団体交渉では、「7%以上あるいは2万円相当が下限と考えている」との意向も示しており、魅力ある港湾労働に向けた交渉を続けている。こうした要求に対して、第3回団交では日本港運協会が「引き続き、船会社や荷主に対する文書を発信するなどしていく」との方針を示したが3月30日日曜には24時間ストが実施された。6年ぶりのストは日曜ということで平日のストに比べて影響は少なかったものの、各関係者にインパクトがあったようだね。組合側は大規模ストライキも覚悟していくとしており、次の行動が注目された。

― その後、4月3日にはさらに組合側が13日日曜から14日月曜の始業時までの24時間ストを通告した。一方で、同日には日港協側でも動きがあった。国土交通省と連名で、港湾ユーザーである荷主や船会社に対し、港湾運送事業の適正な価格転嫁への理解を求める文書「港湾運送事業の運賃・料金における適切な価格転嫁に向けたお願い」を発出した。各港湾事業者が価格交渉の場で活用することを想定して作成したもので、昨年3月にも同じく国交省との連名で発出していたね。

― そうだね。ただ、その後9日に組合と日港協で折衝を行った結果、大きな進展が見られなかったために組合側は追加行動として20日日曜始業時からの24時間ストと、26日土曜から28日月曜始業時までの48時間ストを通告した。

― ただ、結果として26日土曜日からの24時間ストは解除されたね。16日に開催された第4回中央団交では、日港協側が3日に発出した港湾ユーザー向けに価格転嫁への協力を求める文書を直接ユーザー団体に申し入れる考えを示した。具体的な行動に動いたところが認められたのだろうか。

― ただ第4回では新たに5月11日日曜始業時からの24時間ストが通告されたね。またその後、さらに組合側は5月18日以降の全日曜の24時間ストと19日以降の無期限時間外拒否を行う方針を示している。特に平日を含めた無期限時間外拒否は大きな影響が懸念される。

― 現時点で次回団交は14日に開催される予定だ。交渉が前進しなければストが相次ぐ。ここが正念場になりそうだ。
(海運、おわり)