1. コラム

2013年10月18日

(78)函館から尾道、神戸へ

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 「私は宿命的に放浪者である。私は古里を持たない」。林芙美子の自伝小説『放浪記』はこの出だしで読者を惹きつけた。荒涼とした半生を予想させる文章だが、湿りがなく、凛としていて強い意思を感じさせる。芙美子の実像が偲ばれる。  が、「旅へ出よう。美しい旅の古里へ帰ろう。海を見て来よう」と東京を発ち、尾道に向かう場面からにわかに文章は色めき、感情の高まりが露となる。次の一節が極め付け。「海が見えた...