2023年3月14日無料公開記事洋上風力発電
●川崎汽船グループのKWS
技術者組織を設置、知見を展開
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“あかつき”
川崎汽船グループの洋上風力発電事業のプラットフォームとなるケイライン・ウインド・サービス(KWS)は国内洋上風力へのサービス提供に向けてノウハウの蓄積とそれを展開する準備を着々と進めている。KWSは事業開発や営業を担う事業部、営業部に加えて、昨年10月に海務・工務技術者で構成する海務・技術部を設置した。川崎汽船グループや国内外のパートナーが持つ海洋作業の知見を取り込み、発展させ、事業を技術面から支える組織となる。
KWSは2021年6月に川崎汽船と川崎近海汽船の折半出資で発足した。オイル&ガス分野などの海洋作業で培った知見を活かし、洋上風力発電プロジェクトの立ち上げ調査・開発から、風車などの輸送・物流、設置・建設、運転・保守にいたる全てのフェーズを、オフショア支援船をはじめとする各種船舶を用いてサポートする。そのプラットフォームとなるKWSの人員は、発足時の7人から現在17人へと増強された。
このほど立ち上げた海務・技術部は海上輸送の経験を持つ海技者と、船舶建造のエンジニアリング経験のある技術者にて構成される。作業船の運航や建造などに必要な海務・工務の知見を集約し、それを発展させて、提供していくための要となる組織だ。「作業船などのハードを用意するだけではなく、海務・工務のソフト面のノウハウ蓄積をどんどん始めている」とKWSの小寺隆事業部長は語る。
川崎汽船グループは川崎近海汽船子会社のオフショア・オペレーション(OOC)を通じて国内の海洋作業の実績を積んできた。SEP船の曳航や資機材のサプライなど洋上風力発電設備の建設などに用いられる“あかつき”や“かいこう”などのオフショア支援船を既に擁し、それらを投入する準備は万全だ。川崎汽船がノルウェーに置いていたKラインオフショア(KOAS)が大型のオフショア支援船の保有・運航を通じて培った経験もある。さらに昨年12月にはシンガポールのオフショア支援船事業会社マルコポーロ・マリンと覚書を締結し、オフショア支援船の共同事業開発に向けた検討も始めている。
「OOC、KOASで培った知見に加えて、日本と条件が近いアジア水域でのオフショア支援船事業で豊富な実績を持つマルコポーロのノウハウが注入される。アジアの経験は日本の洋上風力向け海洋作業で役立つ」(KWSの池田強特命顧問)。これらのノウハウを日本の洋上風力の事情に合わせて再構築し、現場作業の対応力を高めていく。
KWSは昨年、海洋土木工事と洋上風力建設のトップランナーである五洋建設と洋上風力の建設・保守分野で協業を開始した。従来から、五洋建設が保有するSEP船“CP-8001”の曳船として“かいこう”を新造投入するなど関係を築いてきた。KWSは五洋建設がグループ会社を通じて保有する予定の外国船籍SEP船の日本船籍への変更などの業務、その後の保守・船員などの管理業務を担うほか、KWSが保有するオフショア支援船のさらなる活用、洋上風力発電所の建設段階および運転開始後の保守メンテナンスに必要とされるSOV(サービス・オペレーション・ベッセル)についても両社での協業を前提に検討を進めていく方針だ。
「この協業体制の覚書を締結したことで、これまでの新規事業の立ち上げフェーズから、具体的なサービス提供のための準備を進めるフェーズに入った。それに向けて人員体制も整え、一歩一歩、コマを進めているところだ」(池田氏)。
また、KWSは日本の海に適したCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)とSOVの船型開発にも取り組んでいる。“あかつき”などのオフショア支援船やこれら作業船を提供するとともに、洋上風力発電に関わる船の安全管理についても世界標準で「トップレベル」の実力を持つ組織を育てる観点から、HSEQ(健康・安全・環境・品質)管理を十分検討した作業基準の確立に取り組んでいる。
「日本人の手で日本の海を拓く」ことを目指すKWSは、日本の洋上風力発電の発展を支えるため、洋上作業における技術力をハード、ソフトの両面で高めていく。