2025年9月16日無料公開記事

<洋上風力特集>
国内最大級のケーブル敷設船運航へ
東洋建設、汎用性高め幅広い需要に対応

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進水後のケーブル敷設船

 東洋建設は海底ケーブル需要と多目的船“AUGUST EXPLORER”の埋設作業での活用を見据え、2023年にケーブル敷設船の発注を決めた。新造船は国内最大級となる計9000トンのケーブルタンクを搭載。着床式・浮体式洋上風力や海底直流送電など幅広いケーブル需要を取り込む構えだ。また、本船はケーブルタンクなどデッキ上の機器の取り外しが可能な仕様で、据付作業や杭打ちなどにも活用できる。洋上風力関連では9月1日付で組織改正を行い、「GX事業本部」を設立した。洋上風力に留まらず、海洋を舞台とした脱炭素分野で展開を拡げていく方針だ。

■多目的船の活用も視野に

 東洋建設は2023年にノルウェーの造船所ヴァルド・グループ(Vard Group AS)にケーブル敷設船を発注し、本船は26年上期の引き渡しを予定している。発注の背景について、すでに自航式多目的船“AUGUST EXPLORER”があったことから、その有効活用も念頭に、海底送電ケーブルに着目し、建造に至った。また、ケーブル敷設船は着床式と浮体式両方の需要が見込めることに加え、海底直流送電など洋上風力以外の分野にも展開でき、事業領域が広がる。長期間の活用が見通せる点も投資判断のポイントとなった。
 “AUGUST EXPLORER”は同社が海洋事業へのさらなる展開を進めるべく建造した船だ。2016年の竣工以降、多分野で運航実績を重ねており、水産庁の「フロンティア漁場整備事業」の調査や、環境省が実施する長崎県沖の「潮流発電による地域の脱炭素化モデル構築事業」の設置作業、国土交通省のGPS波浪ブイの撤去作業、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の自立型無人探査機(AUV)実験などさまざまな作業に従事してきた。汎用性の高い多目的船を運用してきた経験が、ケーブル敷設船という次の船づくりにもつながった。
 建造中のケーブル敷設船は国内最大級となる計9000トンのケーブルタンクを搭載している。大水深にも対応できる動揺低減機能付き250トン吊と100トン吊クレーンを搭載し、直流送電と浮体式洋上風力の設置作業にも対応している。また、さらに汎用性を高めるため、ケーブルタンクなどデッキ上の機器を取り外し、「コンストラクションモード」に切り替えることで、据付作業や杭打ちなどにも活用できる。
 海底ケーブル分野における“AUGUST EXPLORER”の活用については、本船のデッキにケーブル埋設機を搭載し、母船としての運航を視野に入れる。ケーブル敷設船と合わせて運航することで、敷設から埋設に至る海底ケーブル工事をワンパッケージで提供していきたい考えだ。
 このほか、洋上風力分野では基礎施工に関する研究・実証を重ねてきた。着床式では日立造船が設計したサクションバケット基礎の施工を担当し、現地実証実験で施工性の確認を完了しており、国内洋上風力案件での採用拡大を目指す。浮体式ではTLP型の係留基礎杭の施工性検証・引抜実験を実施し、施工法の確立に取り組んでいる。

■自社船員による運航強みに

 東洋建設は自社で作業船を運航しており、グループ会社のトマックは50人超の船員を抱える。作業船の自社運航の知見を活かし、海外パートナーとの協業を進めており、今年2月には仏ジフマール(JIFMAR)、星サイアン・リニューアブルズ(Cyan Renewables)と協業に向けた覚書をそれぞれ締結した。各社の洋上風力作業船を日本籍船化したうえで、東洋建設が運航を担い、今後本格化が見込まれる国内の作業船需要を取り込んでいきたい考えだ。
 自社運航体制を維持・強化していくうえで同社は、船員の採用は喫緊の課題と認識する。海技教育機構(JMETS)をはじめ関係先との協力などを通じて、船員のすそ野を広げる活動にも努めていきたい考えだ。JMETSとは船員育成への寄与の一環として、海技大学校講堂(体育館)のネーミングライツ契約を締結し、同講堂には「東洋建設アリーナ」の愛称が付されている。
 東洋建設は9月1日付で組織改正を行い、「洋上風力事業本部」を「GX事業本部」に改編した。GX事業本部のさらなる展開について、鷹嶋俊之常務執行役員は「国内建設市場の先行きも踏まえ、洋上風力のような新規分野を伸ばしていきたいと考える。また、ケーブル敷設船のような作業船を使って、海外進出も視野に入れていきたい」と語った。同本部では洋上風力に留まらず、潮流発電やCCS(CO2回収・貯留)、海底直流送電など脱炭素関連の新規分野への取り組みを進めていく方針だ。
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