2023年3月14日無料公開記事洋上風力発電
●日本郵船
洋上風力の旗艦県・秋田に訓練センター
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CTVのイメージ
日本郵船は秋田県に洋上風力発電に関わる人材の訓練センターを立ち上げる。洋上風車の保守などに携わる作業員を運ぶCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)などの操船や、保守作業の基本となる安全訓練などを提供する施設になり、2024年に開設予定。将来的に年間1000人程度の訓練修了生の輩出を目指す。
日本郵船は洋上風力分野でプロジェクトの調査段階から、建設、運用・保守に至るまで、海運会社の知見を生かしサービスを幅広く提供するバリューチェーン戦略をとる。人材育成もその一環だ。
人材育成の舞台は秋田。日本郵船は昨年2月に秋田県と再生可能エネルギー事業の推進や人材育成などに関する包括連携協定を締結し、同年4月には秋田支店も開設。今回の訓練センターは「包括連携協定を具現化する第一弾の取り組みになる」と横山勉グリーンビジネスグループ長は語る。秋田や近隣県、さらには日本全国の洋上風力人材の需要に応える。「秋田県は洋上風力の旗艦県。訓練拠点の開設で人流が生まれ、地域の活性化にもつながる。地域貢献を通じて企業価値の向上を図る」(横山氏、以下同じ)考えだ。
訓練センターの立ち上げは日本海洋事業とコンソーシアムを組成し、資源エネルギー庁の助成を受けて進める。男鹿半島にある男鹿海洋高等学校の大水深プールなどの設備と、その近隣にある遊休地を利用し、協力企業の東北電力リニューアブルエナジー・サービス(東北電力RENES)が秋田市内で提供する陸上風車の保守作業訓練とも連携する。もともと日本郵船は地元企業との合弁曳船会社、秋田曳船を通じて事業を行うなど、秋田や男鹿海洋高校と関係を築いていた。このことも既存設備を活用する今回の事業につながった。
船員向けの訓練として、CTVなどの作業船や警戒船などサポート船の船員を対象に、作業船の操船訓練とSTCW条約に基づく基本訓練の消火・生存訓練を提供。操船シミュレーターを新設し、船から洋上風車への移乗時に高い安全性を求められるCTVの操船に習熟できるプログラムを導入する。洋上保守作業員向けには、作業員として習得が必要な海上生存技術、応急措置、マニュアルハンドリング、火災予知、高所作業の5つのうち、海上生存技術を提供する。
日本郵船は自社の作業船事業の船員養成でも訓練センターを活用する。
同社は三菱商事らのグループが事業者となる秋田・千葉の一般海域の3事業で船舶などを提供する協力企業となり、26年頃から始まる建設工事に向けて準備を進めている。SEP船はオランダのヴァン・オード・オフショア・ウィンドと協業し、同社の1600トンクレーン搭載船“Aeolus”を日本籍船化した上で26年に投入する。また、CTVはスウェーデンのノーザン・オフショア・グループ(NOG)と提携。秋田では秋田曳船と協業し、26年頃にCTV事業を開始予定だ。
CTV事業は、既に開始している。NOGとの提携の一環で22年竣工の“Energizer”を保有し、NOG子会社に裸貸船しており、それを機に同子会社に船長資格を持つ海技者を派遣。「運航・船舶管理のノウハウを吸収している。その経験を持ち帰り、彼が司令塔となり国内のCTV事業の立ち上げに活かす」。
国内では秋田・千葉に先立ち、石狩湾新港の港湾区域で今年12月に稼働する洋上風力向けにCTVを投入する。2月に風車メーカーのシーメンスガメサと新造船1隻を対象に複数年の用船契約を締結した。日本郵船が保有し、北海道のグループ会社、北洋海運が船舶管理する。
このCTVはインドネシアで建造するが、「NOGの知見を生かしたCTVを日本で建造することが目標」とし、今後のCTV事業に向けて国内造船所との連携も進めている。
一般海域の今後のプロジェクトでも、さまざまな事業者にサービスを提供していく考えだ。SEP船、CTVのほか、地質調査船や海域管理サービス、さらにはケーブル敷設船などの新規分野への参画機会も探る。